発現ベクターを導入したtransformantsは不安定である。
pETに発現したいタンパク質のcDNAを組み込んだ発現プラスミドを、BL21系の大腸菌に導入し、これをAmpを含むplateに開き、生えてきたコロニーを3個程単離し、 Amp入りのTBまたはLBでovernight cultureをして、その一部を小スケールでの発現に用い、一部をfrozen stockとする。発現の結果の良かったクローンのみを残し、残り2つのコロニーからのstockは捨てる。
この操作により、標的タンパク質の発現を確認した単一コロニーからのtransformantsのfrozen stockを確保できる。
以後の発現には、このstockからovernight cultureを作り、それを100倍程度に希釈して発現に用いる。通常はこれで十分な再現性の良い発現が可能であるが、既に述べてきたような様々な要因によって発現レベルが極端に下がることがある。高い発現が得られなくなってしまった時、多くの指導者は、もう一度Amp plateにfrozen stockを開き直して単一コロニーを拾うように指示する。pETを保持しているものを取り直すという意味であるが、悪化の一途をたどることが多い。これは、最初にcolony isolationにより取ったtransformantsが安定なものではないことを意味している。
採取した単一コロニーをAmp入りのTB又はLBを用いてovernight cultureを作り、これをLB-AmpとLB-Amp無しのplatesに開いて、生えてくるコロニーの数を比較してみることで、この不安定性は容易に確認できる。Amp入りのLBでovernight cultureをしても、一晩の培養中に、多くの大腸菌がpETを失う為に、二つのプレート間に生えてくるコロニーの数はLB-Ampプレートの方がコロニーの数はずっと少ない。
このような、transformantsの不安定性の理由は、発現系のリークによるものと考えられる。教科書の図では、IPTGの誘導により標的cDNAの転写が起こり、IPTGが無いときは転写は抑制されており、転写のリークはほとんど無視できるように思ってしまいがちである。しかし、通常は、思う以上の転写のリークがあり、IPTGが無い場合でも、標的タンパク質が作られ、大腸菌に生命の脅威を与えている。一方、Amp耐性を与えるbeta-lactamaseは分泌型である為に培養液中のAmpはある程度以上大腸菌が増殖した時点で無効化される。 このような環境下で、大腸菌は生命の脅威から脱する為に何らかの変化を遂げる。多くの大腸菌は発現ベクターを排除する道を選び、Ampが無効化された培養液中ではストレスも無い為、増殖も早く相対的に多くのポピュレーションを占めることとなる。
つまり、転写のリークの為に、大腸菌は常に変化する。先に述べたIPTG screeningを行うことにより、大腸菌は安定化し、少なくともプラスミドを失う大腸菌は激減する。
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