市場にある治療薬の7割以上が膜タンパク質を標的とするものであるが、膜タンパク質は、一般に疎水性が高く、大腸菌で高いレベルで発現することは困難であることが多い。
P450は、小胞体膜、又はミトコンドリア内幕に存在する膜タンパク質であり、肝臓の小胞体膜上のP450は様々な外来性物質および内在性の物質の代謝を担っている。これらの薬物代謝系のP450は、広範な臓器、組織にも分布し、局部的な薬物代謝にも重要な役割を果たしている。多くのがん細胞にも発現しており、抗がん剤の有効性にも影響を与えることはよく知られている。 従って、これらの薬物代謝系のP450を大腸菌で発現し、精製酵素を用いてヒトの薬物代謝系をin vitroで再構築することにより、新規化合物のヒトでの代謝を解析する試みは重要である。あるいは、精製酵素から結晶構造を解析し、構造に基づいた新規治療薬の開発を進めようとする試みがなされている。
その結果、P450の大腸菌での発現と精製、結晶化による構造解析は、急速な進歩を遂げた。ここでは、P450という膜タンパク質の大腸菌での発現に焦点を当てて解説してみる。
P450は、N−末端のシグナルペプチドが合成された時点で、SRP (signal recognition particle) により認識され、小胞体膜上の運ばれ、N−末端のアンカー部分を膜に埋め込む形で、膜上で残りの翻訳、フォールディング、ヘムの導入が行われる。従って、小胞体膜上のP450は、rough microsome で合成される。
大腸菌でこれを発現するにあたり、当初は、膜へのアンカー配列を残したまま発現することが試みられ、Barnesの配列(MALLLAVF)が頻繁に用いられた。この配列は、アラインメントにより位置を決めて他のP450のアンカー配列と置き換えることにより、有効に働き多くのP450の大腸菌での発現を成功に導いた。
発現の目的にもよるが、その後、アンカー配列を除くことでより高い発現レベルが得られることが分かり、現在では大部分の場合、N−末端のアンカー部分を削除して発現されている。また、アンカー配列の有無にかかわらず、これらミクロゾーム型のP450は発現レベルが低い状態では大腸菌の膜画分に回収されるが、発現レベルが高くなると大部分が可溶性画分に回収される。この為に、P450を大腸菌から回収する際には、detergentを含む溶液で膜を可溶化し全体を回収する。
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