2013年1月30日水曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法15:タンパク質の回収2

先に記した手順について解説する。
Extraction buffer:先に示したExtraction bufferには大量のdetergentが入っている。通常、私は、可溶性タンパク質であろうと疎水性の高い膜タンパク質であろうと、このExtraction bufferを用いる。その理由は、回収率が高く、目で見て様子が分かりやすい為である。

膜タンパクでも可溶性タンパクでもdetergentを抜いたbufferでsonicateしてタンパク質を回収することはできる。しかし膜タンパク質は発現レベルが高くなればなるほど、超遠心でペレット側に回収される割合が減少する。従って、わざわざ膜画分を回収する意味は無くなってしまう。
可溶性タンパク質の場合多くの人はdetergentを使わない。しかし、detergentを使う方が凝集などの問題が無くなるので、私は常にdetergentを含むbufferを用いる。
もう一つの利点は、detergentを含むbufferを用いることにより、sonicationをしてクリアーになれば、inclusion bodyがほとんどできていないと判断でき、濁りが多い場合には、inclusion bodyができていると判断できる。つまり、目で見るだけで、発現の状態を知ることができる。

手順:
1. 大腸菌を遠心チューブで低速遠心(4000 rpm × 15 min (tabletop centrifuge Allegra X-15R, Beckman Coulter, Fullerton, CA, USA))して回収する。
2. 大腸菌のペレットを、適量の Lysozyme bufferでサスペンドしながら50 mlのコーニングのチューブに移し(チューブ当り10 ml以下のペレットとなるよう考えて回収する。)、低速遠心し、上澄みを捨てる。
3. 25 ml の Lysozyme buffer with 0.5 mg/ml lysozyme でサスペンドして、低速遠心して上澄みを捨てる。

 2と3のステップは、以下のように簡略化しても良い。
15−16 ml のLysozyme bufferで大腸菌をコーニングのチューブに移す。ここに、等量のLysozyme buffer with 1 mg/ml lysozymeを加えて、適当に混ぜ、低速遠心して、上澄みを捨てる。
氷上で30分inncubate などはしない。操作して、遠心している時間で十分のようである。

4. 25 mlのExtraction bufferを加え、かき混ぜないでそのまま、sonicationを行う。超音波破砕機のプローブの先端で、ペレットが自然に混ざるようにしながら、細胞を破砕可溶化する。この時、温度が上がらないように、20−30秒ごとに手で触ってみて、温度が上がってきたら氷中にしばらく付け、温度が下がってから 再度sonicationを行う。液がクリアーになり、DNAが寸断されて粘度が下がれば終了する。

 多くの場合、アイスバケツに氷を入れ、そこにビーカーを立ててsonicationするように教えられているようであるが、溶液の温度は、発生する熱と放出除去される熱のバランスであり、氷上でsonicationをして、確かめもせずに低温で操作していると信じきっているのは誤りである。
 目と手で確かめるのが最も確実な方法である。
このステップでDNAを寸断して粘度を下げておくことの意味は、次の超遠心での固液分離と更に次の精製時の扱いやすさの確保の為である。
 ここでのExtraction bufferの量は、超遠心のチューブの容量により決定する。無意味に体積を増やして、全体の操作時間を増やすことは極力避けるべきである。

 5. これを超遠心により(Beckman TL100; 95,000 rpm × 10 min at 4◦C)ペレットを除き、上澄みを回収する。
6. 回収した上澄みは、液体窒素で凍らせて、-80度で保存する。

2013年1月28日月曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法14:タンパク質の回収1

大腸菌からタンパク質を回収する為には、1)凍結誘拐を繰り返して細胞を破壊する、2)フレンチプレスにより細胞を破壊する、3)超音波破砕(sonication)により細胞を破砕する、などがある。1)は簡便であるが、ものにより標的タンパク質が失活する不安がある。2)と3)はあまり差は無いが、2)はある程度以上のスケールが必要であり、3)の方が小スケールでも大スケールでも可能であり、目で見ることができるので分かりやすい。従って、私は3)を使っている。

超音波破砕については、タンパク質が変性するのでは、タンパク質が切れるのでは、など心配する向きがある。50から60 kDa程度の大きさ以下のタンパク質に限って言えば、sonicationによる変性、切断などは全く心配する必要はない。

超音波破砕の法

Lysozyme buffer: 50 mM Tris–HCl pH 7.2, 250 mM
sucrose, 0.5 mM EDTA.

Extraction buffer: 50 mM potassium phosphate, pH 7.4, 500 mM sodium acetate, 0.1 mM EDTA, 0.1 mM DTT, 20 % glycerol, 1.5% sodium cholate, 1.5% Tween 20, and 100 μM PMSF

以下の操作はすべて4度で行う。

1. 大腸菌を遠心チューブで低速遠心(4000 rpm × 15 min (tabletop centrifuge Allegra X-15R, Beckman Coulter, Fullerton, CA, USA))して回収する。
2. 大腸菌のペレットを、適量の Lysozyme bufferでサスペンドしながら50 mlのコーニングのチューブに移し(チューブ当り10 ml以下のペレットとなるよう考えて回収する。)、低速遠心し、上澄みを捨てる。
3. 25 ml の Lysozyme buffer with 0.5 mg/ml lysozyme でサスペンドして、低速遠心して上澄みを捨てる。
4. 25 mlのExtraction bufferを加え、かき混ぜないでそのまま、sonicationを行う。超音波破砕機のプローブの先端で、ペレットが自然に混ざるようにしながら、細胞を破砕可溶化する。この時、温度が上がらないように、20−30秒ごとに手で触ってみて、温度が上がってきたら氷中にしばらく付け、温度が下がってから再度sonicationを行う。液がクリアーになり、DNAが寸断されて粘度が下がれば終了する。
 5. これを超遠心により(Beckman TL100; 95,000 rpm × 10 min at 4◦C)ペレットを除き、上澄みを回収する。
6. 回収した上澄みは、液体窒素で凍らせて、-80度で保存する。

アメリカ人の足に「指」は無い

アメリカ人の足に"finger"「指」というものは無い。足の小指をタンスの角にぶつけて、というのは英語ではなかなか表現することが難しい。まずアメリカ人は家の中でも靴を履いているので、足の小指を何かにぶつけるイメージを持っていない。そして、何故か、英語では足の指という認識が無く、足の指はあくまでつま先の一部でしかない。従って、英語では足の小指は"a little toe"であり、a little fingerといえば、手の小指しか意味しない。
ちなみに、手の親指、人差し指、中指、薬指、小指は、thumb, index finger, middle finger, ring finger, little fingerであり、足の場合には、big toeまたはfirst toe, second toe, third toe, forth toe, fifth toe またはlittle toeとなる。
日本人は薬指で薬をつけるが、アメリカ人にとって薬指は指輪を入れる指である。

ところで、昨日ニュースでオバマ大統領の就任式で、ビヨンセの口パク疑惑が報道されるのを見た。このニュースで、口パクを英語でlip sync (synchronization)というのを始めて知った。

2013年1月27日日曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法13:IPTGとtransformantの安定性

大腸菌のtransformantは、発現ベクターを導入し、Amp/Kan plateに生えてくるコロニーを単離しただけの状態では、安定なstrainとはなっていない。従って、タンパク質の発現を誘導する為に、IPTGを加えると単一コロニーとして単離した大腸菌は時間とともにヘテロな集団となる。発現ベクターのマーカーがAmp耐性である場合、培養液中のAmpは時間とともに中和されその効力を失う為に、途中からは発現ベクターを失いAmp耐性を持たない大腸菌も増殖することが可能となる。
特に動物のP450は膜タパク質であり、大腸菌に取ってこれを発現することは強いストレスとなる為に、大腸菌は何らかの形で生き延びる手だてを講じる。 その結果、かなりの割合の大腸菌は、発現ベクターを体内から除く選択をすることとなる。従って、大腸菌のtransformantをAmp/Kan plateで単離して、そのまま通常のやり方でIPTGで誘導をかけて細胞をファルコンのtubeで回収すると、P450のように色の付いた酵素の発現を行ってみれば、白から濃い茶色までの大腸菌の色の層ができるので一目瞭然である。白い大腸菌は発現ベクターを失ったものが増殖したものであり、茶の色も発現レベルにより幾つかの集団に分かれるのであろう。
では、Ampではなく、培養中に失われない抗生物質を発現ベクターのマーカーとすればどうであろう。この場合にも、かなりの割合の大腸菌は発現ベクターを排除する為に、結果的に、抗生物質を含む培養液中では増殖できず、増殖できる大腸菌量が激減する。これは、pHのタイムコースを大きく変化させ、すべての条件が変わってくる結果を導き、大腸菌発現をますます訳の分からないものとしてしまう。
一方で、先に述べた、IPTGの至適濃度を決める為の、IPTG screeningを行って単離した大腸菌の場合には、発現ベクターを維持しながら、IPTGによるタンパク質発現のストレスに耐える何らかの変化を遂げた コロニーを単離しているので、発現のためにIPTGを加えても、培養中に発現ベクターを失う大腸菌はほとんどなく、ファルコンtubeで大腸菌を回収しても、大腸菌のペレットに明確な層が現れることは無い。つまり、IPTG screeningの意味は、IPTGの至適濃度を決める目的だけではなく、タンパク質発現の為のストレスに耐えるより安定化したtransformantを単離することでもある。


2013年1月25日金曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法12:誘導のタイミング

誘導のタイミングはどのようにして決めれば良いのか。対数増殖期が良いというもっともらしい話はあるが、根拠は無いのではないか。
では何を根拠にどのようにして誘導のタイミングを決めれば良いのか。
37度でのprecultureは、できるだけ激しく効率よく培養液がフラスコの壁を伝って回転するようにして空気と触れる表面積を増やすようにする。
しかし、最適の誘導のタイミングは、発現するもの(標的タンパク質)により微妙に異なる。恐らくこの基本は濁度でありODを測定することはあながち間違いとは言えない。
ともあれ、仮にベストの誘導のタイミングに4時間で到達したとすると、この時のpHのタイムコースをモニターすればpHは6付近まで下がり再び上昇を始めて7付近に到達する。これが回収のタイミングとなり、ここで回収すれば高い発現レベルを得ることができる。これを逃すと、pHは更に急激に上がり、発現蓄積されたタンパク質は急速に失われる。

 同じものを10分早く誘導すると、pHの下がりはきつくなり、6以下にまで下がる。これでも下がりすぎていない場合には、再び上昇を始めてpHが7になまでに時間はかかるが、発現レベルはあまり落ちないでタンパク質を回収することができる。
もっと早く誘導してしまうと、5付近までpHは下がり、その後上昇を始めて7になるのを待っても、大部分の大腸菌は恐らくプラスミドを失っているのかと思うが(確認をしたことは無い)、全く発現は見られなくなる。(図の赤線)

一方で、誘導が遅すぎると(図の青線)  pHは十分に下がらず、すぐに上がり始める。これも想像であるが、恐らく、発現の為の十分な時間が取れず、pH7で回収しても高い発現レベルは得られない。

従って、至適な誘導のタイミングを知る為には、pHのタイムコースを見るだけで、概要を知ることができる。
一方で、実際にやってみれば、誘導の至適な時間の許容範囲はかなり狭く、ODを測っているだけで10分から15分もかかっていてはタイミングを逃しかねない。従って、私は目で見て誘導のタイミングを決めている。これが最も簡便で現実的な方法である。これをもって、目で見るのは科学的でないという批判を受けたことがある。ごもっともであるが、目で見て決めた方が確実で、手間もかからず、苦痛も少ない。


2013年1月22日火曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法11:乾式振とう培養器その3  振とうの速度

振とうの速度

振とうの速度はどのようにして決定すれば良いのか。
培養液がフラスコの壁を伝って高い位置まで液体の壁を作り、培養液全体がフラスコの中で回転するように回転速度を調節する。回転速度は高すぎても、低すぎても振とうの効率は悪くなり、十分な酸素供給ができなくなる
至適回転数は、フラスコの中に入れる培養液の量によっても変化する。

至適の回転速度を得る為には、側面がガラスの培養器が便利である。側面がガラスの培養器があれば、3Lのフラスコの中に200、300、400、500 mlの水を入れて振とうしてみれば回転数と液体のvolumeによる至適条件の変化は一目瞭然となる。

至適回転数は、一方で、液体の粘度によっても変化する。従って、培養が進み、大腸菌濃度が高くなると培養液の粘度が上昇し、高い回転数ではうまく回らなくなり、結果的に酸素供給が不十分となって、高いタンパク質の発現レベルは得られなくなる。

思う以上に、振とう速度と発現レベルの関係は複雑であり、良く目で見ることが非常に大事である。

2013年1月21日月曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法10:乾式振とう培養器その2

振とう機のチャンバー内には温度の不均一な分布がある。
その為に、6本のフラスコを同時に培養すると大腸菌のgrowthにわずかな差が生じ、これが誘導のタイミングのずれとなって、その結果、非常に大きな標的タンパク質の発現レベルの差となって現れる。

通常このようなことは明確にはならない。なぜなら、6本のフラスコを一度に培養する場合、誰もが同時に誘導し、同時に大腸菌を回収し、6本分を一緒にして発現レベルを見るだけである。しかし、これでは発現していない大腸菌で発現レベルの高い大腸菌を薄めているだけであり、6本を同時に振ることは、扱うvolumeを増やし、操作時間を増やし、不純物の量を増やすだけであり、何の意味も無い。
 機会があれば、一度6本をそれぞれ別々に回収してみれば、回収される大腸菌のペレットのvolumeが異なっていることに気づくことができる。また、それぞれのフラスコのタンパク質の発現レベルを測ってみれば、発現レベルの差は一目瞭然である。


振とう機のメーカーが丁寧に設計をすればこのような問題は簡単に解決できるはずであるが、振とう機メーカーは、チャンバー内のわずかな温度分布により、発現にこれほど大きな差が生じるという認識はない。


2013年1月20日日曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法9:乾式振とう培養器その1

振とう培養器としては、乾式で、クーラーが付いたものが必要である。
私が使用していたものは、3LのFernbach Flaskのホルダーを6個設置できる、つまり、6本のフラスコを同時に振ることのできるタイプであった。
このタイプの培養器には、重要な欠陥がある。6本のフラスコを同時に培養してみればすぐに分かることであるが、6本それぞれに大腸菌の増殖速度が異なり、その結果、誘導してから1夜経つと、目で見ても分かる程の差が生じ、その結果、培養液の粘度にもフラスコごとに差が生じ、振とうの様子にも大きな差が生じる。振とうは一枚の板の上に6本のフラスコを載せて全体を動かしているので、フラスコ間に振とうの差が生じるとは考えにくい。従って、増殖速度に差が出る理由としては、恐らく、フラスコの位置とチャンバー内の空気の流れの問題で、空気の出口に近いフラスコと遠いフラスコとの間にわずかな温度差が生じ、その結果、大腸菌の増殖速度に際が生じるものと考えられる。
実際に、pHのタイムコースを測定すれば、フラスコごとの増殖速度の差は歴然としており、6本のフラスコの培養を同時に開始し、同時に誘導すると培養液がpH7となる時間はまちまちであり、すべてのフラスコに付いてpH7になるのを待って別々のタイミングで回収しても標的タンパク質の発現には大きな差が生じる。
従って、私は、常に一度に2本のフラスコのみを空気の出口に近いホルダーにセットして、発現を行ってきた。それでもでも、2本のフラスコの増殖速度にはわずかな際があり、同時に誘導を行い、それぞれの培養液のpHが7になるのを待って別々のタイミングで回収をするのが常である。
2本だけの培養であれば、このような方法によりあまり大きな発現レベルの差もなく、高い再現性で標的タンパク質を発現することができる。



2013年1月19日土曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法8:培養条件その3 IPTGの至適濃度

IPTGの至適濃度

メーカーの解説、実験書など多くのものに、IPTG濃度を調整することにより発現レベルを高めることができると書いてある。しかし、これまで述べたように、大腸菌の培養条件には多くの要因が複雑に関係し合っており、発現レベルが低くて困っている時に、IPTGの濃度を振ってみて至適濃度を求めることは現実性に欠ける。

特に、活性のある標的タンパク質の測定に簡単な方法が無い多くのタンパク質では、4−5点程度IPTG濃度を振って、それぞれの濃度でのタンパク質の発現レベルを調べることは時間と手間ばかりかかり、良い結果が得られることは期待できない。

これには、IPTG plateを用いる方法が有効である。LB plate(約15 ml LB)に0.4 mM, 0.2 mM, 0.1 mMとなるようにIPTGを加えてまんべんなく広げ、37度の培養器で1時間程おいておく。この際、LB plateは、Amp とKanは含まないものを使用する。
このIPTG plateにtransformantの一夜培養液をLBで1万−10万倍に希釈したものを、100μl spreadする。これを培養器に入れ、37度で一夜置くと、左図のようにIPTG濃度が高いplateほど生えてくるコロニー数は減少する。
また、発現の難しいタンパク質のtransformantほどコロニー数は減少する。
注意する点は、1枚のプレート上のコロニーのサイズに大きなばらつきがあるという点である。

大腸菌発現というものは、基本的に大腸菌に苦痛を強いるものであり、大腸菌はこの苦痛に対して何らかの形で身を守ろうとする。その結果、一部は、発現ベクターを排除する。大きいコロニーがこれに当たる。小さなコロニーは、何らかの形で、発現ベクターをその身に保持したまま、苦痛に耐えて折り合いをつけようとするものと考えられる。

 左図は実際にこれを行った時のIPTG plateの写真である。
右のIPTG 1 mMのplateには大きいコロニーしか生えておらず、これらの大きいコロニーはすべてpETベクターを持っていない。
左のIPTG 0.125 mMのplateには大中小のコロニーが生えてきている。従って、このIPTG濃度であれば発現ベクターを保持したまま生存できる大腸菌がいることを示している。
 この左のplateから、大中小に分けてコロニーをピックアップし、LB with Amp+Kan plateにstreakして、37度で一夜培養すると、
左図の右側のようなplateを得る。

発現することが特に困難なタンパク質はIPTG濃度が0.12 mMでも非常に少ない数のコロニーしか発現ベクターを保持したまま生えてこない。
右のplateで生えてきたコロニーは、IPTG 0.12 mMで発現ベクターを保持したまま増殖できるtransformantであって、これを発現実験に使用する。当然、誘導時のIPTG濃度は0.1-0.2 mMとする。

この方法の大きなメリットは、標的タンパク質の発現レベルを測定するのではなく、plate上だけでIPTGの至適濃度を知ることができること、更に、ここで決めたIPTG濃度において選択した大腸菌は発現ベクターを保持した状態で増殖し、標的タンパク質を作ることができるということである。

ここで分かることは、最初に発現ベクターを導入し、Amp/Kan plateでピックアップしたコロニーは、transformantとしては不安定な状態にあり、IPTGにより刺激を受けるとへテロな集団となると云うことである。

記事に対するご意見、質問を歓迎します。

2013年1月17日木曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法7:培養条件その2 pH

培養条件その2;pHと発現レベル

pHは高発現を得る為の最重要項目の一つである。

TB培養液は、代謝物によるpH低下を防ぐ為に炭素源としてグリセリンを利用している。更に、培養中のpHの変化を押さえる為に100 mMのリン酸バッファーを含んでいる。教科書のこれらの記述によって、私は、TBのpHは培養中に大きな変化はないものと思い込んでいた。 また、pHメーターの電極を最近の培養液につけるのは暴挙であるという教えも受けた覚えがある。諸々の理由により、大腸菌を培養中の培養液のpHを測ることがなかった。実際に測ってみると、信じがたい程に大きな変化があり、タンパク質の発現レベルと重要な関係があった。

37度で4時間程度のprecultureではpHは7.2 程度で大きな変化はないが、誘導を開始してから、pHは下がり始め、6.0付近まで一旦下がり、再び上がり始める。通常、14−15時間後には、pH6.5−7.0の間になり、約1時間でpHは0.1上がる。これを目安にして、pH7.0で発現レベルは最大を示すので、ここで大腸菌を回収する。

一度、丁寧にpHと発現レベルの関係を調べておけば、以降はpHだけをモニターして大腸菌の回収のタイミングを決定できる。

標的タンパク質の発現と培養液のpHの関係は、はっきりしている。誘導後、pHが6.7程度に下がるまでの間に活性のあるタンパク質の発現をある程度見ることができる。その後、pHの低下とともに、活性のある標的タンパク質は消失し、pHが6近くまで下がり再び上がり始め、7に近づくとともに再び発現を検知できるようになり、7付近で発現レベルは最大となる。pHが7を超えると、pHは急激に上昇を始め、pHの上昇とともに活性のある標的タンパク質は失われて消失してしまう。

このpHのtime courseは、誘導のタイミングと密接な関係があり、わずかに誘導が早いとpHは6以下となり、恐らく発現プラスミドが失われてしまう為に、より長い時間をかけて再びpHが上昇して7近くになってもタンパク質の発現は見られなくなってしまう。
一方で、誘導のタイミングが遅いと、pHはあまり下がらずに上昇を始め、恐らく発現の為に必要な十分な時間を確保できないうちに7に戻る為、高い発現レベルは得られず、そのまま7を超えて時間とともに標的タンパク質は消失する。



2013年1月16日水曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法6:培養条件その1

培養条件はあまりに多くの要素があり、これらをどのようにして決めればよいか。

ここでは標準的な方法を示すことにする。

1) 5 ml のTB with 100 μg/ml ampicillin and 40 μg/ml kanamycinを10 ml のculture tubeに入れ、白金耳でfrozen stock から、transformantを植え、37度で一夜培養する。

注1)transformant は常に同じfrozen stockからとり、inoculate する。frozen stock は、−80度の冷凍庫から取り出して溶かし、白金耳、又はピペッターで0.5−1 μlをinoculateする。frozen stockは、使用後すぐに液体窒素で凍らせ、−80度の冷凍庫に戻す。確実に液体窒素で凍らせ、−80度で保存する限り2−3年繰り返しこの操作をしても発現レベルの変化が起こることはない。
注2)TBは先に述べたように、入手先が重要であり、これを厳守することで発現は安定する。 この点には、多くのヒトが異議を唱えるところかと思うが、これは絶対である。

2)250 ml のTB with 100 μg/ml amp and 40 μg/ml kanを3 Lのフェルンバッハフラスコにに用意する。これに一夜培養液を2.5 ml (100 倍希釈)加え、37度で3.5−4時間激しく(250 rpm) 撹拌する。OD 0.8-1.0となるまで撹拌培養する。

注3)私は論文では常にOD 0.8-1.0と書いてきたが、いつからかこれを測定したことはなく、常に肉眼で誘導のタイミングを決めている。そして肉眼での判断が最も現実的であると信じている。

3)このタイミングで、以下の最終濃度となるように必要な化合物を加える。
0.5 mM IPTG for the transcriptional induction of the target protein
50 μg/ml Amp
4 mg/ml arabinose for the induction of GroES and GroEL
1 mM δ-ALA (a precursor of heme biosynthesis)

4)培養器の温度を28度に下げ、回転数も200 rpmとし、15−16時間培養する。

注4)温度を下げるのはinclusion bodyの形成を避けるためである。
注5)回転数を下げるのは、培養が進み菌の濃度が高くなると培養液の粘度が上がり、高い回転数では十分な浸透が得られなくなる為である。
注6)15−16時間の培養を行う為には、夕方の6時頃に誘導をかけることができるように実験を計画する必要がある。夕方6時頃に誘導を始めると、翌朝9時頃に培養液のpHを測定することとなり、大腸菌を回収するタイミングをちょうど良い時間に合わせることができる。

5)15−16時間の培養の後、培養液のpHを測定する。pHが7より低い場合は、pHが7になるのを待って大腸菌を低速遠心で回収する。
注7)大腸菌を回収するタイミングとpHの関係は非常に重要であるので、pHと発現の関係のみを取り上げて、培養条件その2で詳述する。







2013年1月15日火曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法5:トランスフォーマントの選定と保存

標的タンパク質の発現プラスミド(仮にXpETと呼ぶ。Amp耐性)が出来上がり、GroES/GroELの共発現ベクター(仮にpGro12と呼ぶ。Kan耐性)の準備もできれば、まずは、pGroをBL21系のホストに導入して、一旦、GroES/GroELの入ったBL21を単離し、このコンピテントセルを作成しておく。

これにXpETを導入する。Transformantsは、LB plate (supplemented with 100 μg/ml ampicillin (Amp) and 50 μg/ml kanamycin (Kan))上で選択する。2−3個のコロニーをピックアップし、1 ml のTB (Amp 100 μg/ml, Kan 50 μg/ml)でovernight culture (O/N)を行い、それぞれ0.1 mlを滅菌した1.5 mlのエッペンドルフチューブに取り、滅菌した0.1 mlのグリセリンを加えて、ボルテックスして液体窒素で凍らせ、-80度で保存する(frozen stock)。残ったO/N cultureを0.025 mlとり、これを25 mlのTB (Amp 100 μg/ml)を入れた125 mlの三角フラスコに加え、激しく37度で4時間、あるいはかなり濁ってくるまで培養する。
ここで、0.5 mM IPTG (for the transcriptional induction of the target protein), 50 μg/ml Amp, 4 mg/m arabinose (for the induction of GroES and GroEL), and 1 mM δ-ALA (a precursor of heme biosynthesis, when the target protein is a heme protein)を培養液に加えて、温度を28度まで下げて、15−16時間培養する。
ここで、pHをpHメータを用いて測定し、培養液のpHが7.0となった時に軽く遠心して大腸菌を回収する。
ここであらかじめ定めた測定法により、標的タンパク質の発現量を測定する。
最も発現量の高かったコロニーを一つ残し、あとの frozen stockは捨てておく。

注)pHメーターで測定するたびに、培養液は戻さずに捨てる。pHメーターのエレクトロードは、測定の都度、蒸留水でリンスし、その後エタノールでリンスすることによりバクテリアのコンタミを防ぐことができる。

ところで、読者の反論、質問は歓迎する。




2013年1月13日日曜日

ザール川:湾曲部、メトラッハ

ザールブリュッケン(ドイツ)から車で1時間ほど北西、メトラッハの近くにザール川の湾曲部がある。公園の丘の上からこの湾曲部を一望できる。写真ではわかりにくいが、手前の部分で川が湾曲し平行に走っている。
言いようもなく美しく不思議な気持ちになる風景を望むことができる。

2013年1月7日月曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法4:生理活性を持つタンパク質の発現

ここでは生理活性を持つタンパク質の発現に焦点を絞って考える。従って、インクルージョンボディーとしてタンパク質を大量に発現することは考えない。

最初に考えておくべきは、発現レベルをどのようにして決定するかである。発現したタンパク質の活性を問題にする場合、発現レベルをSDS-PAGEで見ることにはほとんど意味がない。

His-Tagを付けたものについては、様々なタンパク質に用いることができるのは、発現後、大腸菌の抽出物を0.02 ml程度のNi-NTA 樹脂に吸着させラフな精製を行う方法である。6 x Hisの場合、200 mM imidazoleで溶出できるので、10倍から20倍に薄めた時、活性阻害が起きないならば、このような微量の精製は有効である。
P450の場合、CO差スペクトルで、450nmにピークを示すものは大腸菌には存在しないので、大腸菌からの抽出物をCO差スペクトルで直接測ることができる。これは特異性が高く、酵素活性を持つP450タンパク質の量を正確に測定できる。

インクルージョンボディーができると、相対的にgrowthは遅くなる。また、detergent (界面活性剤)を含む溶液でsonicationにより可溶化した時、白く濁るので容易に判定できる。これを解決するためには、GroES/GroELの発現ベクター(購入可能)を導入して、標的タンパク質と共発現するのが多くの場合有効である。

2013年1月6日日曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法3:レアコドン

哺乳類の遺伝子ではある程度大腸菌のレアコドンを含んでいる。発現レベルの高低とレアコドンとの関係は、あまり重要ではないように考えている。
レアコドンを考える以前になすべきことが多くあり、優先順位で考えると、レアコドンに対処するのは後の方でよい。
気になるならば、レアコドンのtRNAを増強したホストを購入して試すことは容易である。

2013年1月3日木曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法2:装置と培養液

1)発現のための培養装置
冷却装置のついた、回転式の培養器:冷却装置のついたイノーバ44Rなど。培養時に観察できるよう側面がガラスのものがよい。
筆者は、大量に培養する場合には、3Lの培養フラスコ(PYREX Fernbach Culture Flask, Corning)に500 mLの培養液を入れて培養する。
プラットフォームにフラスコを接着するタイプはさけた方が懸命である。何故か。震盪中に接着が外れ、フラスコが内部で踊り悲惨なことになる。
小スケールの場合、125 mLのエレンマイヤーフラスコに25 mlの培養液を入れて培養する。

2)培養液:Terrific Broth (TB)
--> Terrific Broth (1 liter): 12 g Tryptone (Tryptone, Pancreatic, without Sulfonomide Antagonists, Powder, EM1.02239.0500, VWR), 24 g BactoTM Yeast extract technical (Becton, Dickinson and Company, Cat. # 288620), and 4 ml glycerol are dissolved in 900 ml distilled (or Millipore-filtrated) water and autoclaved at 210 degree C for 20 min. The 10 x phosphate buffer (1 liter) is made by dissolving 23.1 g KH2PO4 (anhydrous) and 125.4 g K2HPO4 and is separately autoclaved.
 TBを調整する際に最も重要なことは、どのメーカーのものを購入するかである。メーカーにより、本来発現するものも発現しなくなってしまうほどの違いがある。上記の組み合わせは、著者の知るベストの組み合わせである。
 現時点で、上記メーカーの組み合わせがベストであるかどうか保証の限りではない。余裕があれば、種々のメーカのものを比較しておくのがベターである。とはいえ、既に誰かが大腸菌でタンパク質を発現している研究室であるとしても、これを比較することは思うほど容易ではない。筆者の場合は、P450という色のついた、しかもCO差スペクトルで容易に特異的に測定できるタンパク質を扱っていた為に、このような比較も簡単であったが。


 

大腸菌でタンパク質を発現する法1:発現ベクター

分子生物学の発達により、研究対象とする生理活性を持つと思われる微量のタンパク質を同定することが容易になった。タンパク質の一部でも明らかになれば、遺伝子のデーターベースで検索し、候補遺伝子のcDNAを組み込んだ発現ベクターを構築して、それを培養細胞などに導入して、強制的に発現し、細胞レベルで生理活性を調べることが普通の方法となっている。その結果、動植物の組織からタンパク質を生成して、その生理活性および特徴を研究するということは無くなり、強制的に過剰発現した細胞から目的のタンパク質を生成して、種々の研究を進めることが一般的となっている。
知りたい内容、目的により 動植物の培養細胞、酵母、大腸菌などを用いて、タンパク質を発現する方法が確立されている。ここでは、何回かに渡り、大腸菌でタンパク質を発現する方法について述べることにする。
大腸菌での発現系の利点は、培養が容易かつ安価であり、発現に必要な時間が短く、大量に目的とするタンパク質を得ることができる点にある。一方で、糖鎖によりタンパク質を修飾する系はないので、糖鎖による修飾が重要である場合には大腸菌での発現は適当ではない。

1)cDNAの入手
目的タンパク質のcDNAはPCRにより容易に作成できる。多くのタンパク質のcDNAは購入することも可能である。

2)発現ベクターとホストの選択
 発現ベクターとホストの組み合わせは、pET17とBL21(DE3)の系を用いるのが容易である。つまり、T7 RNA polymeraseを利用した発現系を使用する。多くのT7系の発現ベクターの中で特にpET17を選択する理由は、この発現ベクターが3kbとサイズが小さく扱いやすいことにある。

3)発現ベクターに挿入するcDNAのデザイン(His-Tag)
N-末端の配列は発現レベルに影響することが多いので、特別な理由がなければ、C-末端に6xHisを導入しておく。4xHisは、Ni-NTA columnに対する結合が弱く、大腸菌由来のタンパク質を十分に洗い分けることが難しくなる。
N-末端は、NdeIサイト内のATGを利用し、second codonは目的とするタンパク質ごとに有利、不利がある(Looman, A.C. et al. Embo J 6, 2489-2492 (1987))。高発現を得られる可能性の高いコドンは AAA (Lys)、GCU (Ala)などである。筆者は膜タンパク質の発現では、常にGCTを用いている。
3-5番目のコドンについては、生じたRNAに対するリボソームの結合 と翻訳効率を上げるためにアミノ酸配列は維持したままATリッチなコドンを利用する。

注1:PCR用のプライマーは、現在ではプライマーの合成が安価となっており、長さをケチる意味は無くなっている。従って、アニールする部分を20nt確保するようにデザインする。

注2: PCRで作成したcDNAのfragmentは完全にsequenceして、配列に間違いがないことを確認する。

注3:発現プラスミドの作成において最も重要なことは、失敗しないデザインをすることである。 失敗をしてやり直すと、それだけで1週間を失う。



13年ゼミ

2011年アメリカの中南部では13年ゼミの発生周期にあたった。テネシー州のナッシュビルでこの13年ゼミの大発生を体験した。
羽は透明で、比較的小振りのツクツクボウシ程度のセミで、13年ごとに成虫が大発生する。私はこの時、生まれて初めて、セミが殻を脱ぎ羽化するのを最初から最後まで見ることができた。つまり、そこいらを少し歩けば、羽化を容易に見ることができるほど大量のセミが其処此処で羽化し、抜け殻だらけになる。
アメリカ人はこのセミをほとんど害虫感覚でとらえており、セミの鳴き声はただうるさいという認識で、樹液を吸って木を痛めると考えている。特にこのセミの好む木では、根元の周囲2−3メートルの地面がびっしりと円形にセミの抜け殻で敷き詰められ、木は幹が見えないほどにセミで覆われる。車で走ると、道の両側はびっしりとセミの死骸で埋まり、飛んでいるセミが頻繁にフロントガラスに当たってくる。この掃除をするだけでも結構大変で、アメリが人が害虫視するのも無理からぬものがある。
アメリカでは、普通の夏はセミに限らず昆虫の数が日本より圧倒的に少なく、子供の頃セミ取りをして遊んだ身としては、大量のセミも特にうるさいとも感じないが。