分子生物学の発達により、研究対象とする生理活性を持つと思われる微量のタンパク質を同定することが容易になった。タンパク質の一部でも明らかになれば、遺伝子のデーターベースで検索し、候補遺伝子のcDNAを組み込んだ発現ベクターを構築して、それを培養細胞などに導入して、強制的に発現し、細胞レベルで生理活性を調べることが普通の方法となっている。その結果、動植物の組織からタンパク質を生成して、その生理活性および特徴を研究するということは無くなり、強制的に過剰発現した細胞から目的のタンパク質を生成して、種々の研究を進めることが一般的となっている。
知りたい内容、目的により 動植物の培養細胞、酵母、大腸菌などを用いて、タンパク質を発現する方法が確立されている。ここでは、何回かに渡り、大腸菌でタンパク質を発現する方法について述べることにする。
大腸菌での発現系の利点は、培養が容易かつ安価であり、発現に必要な時間が短く、大量に目的とするタンパク質を得ることができる点にある。一方で、糖鎖によりタンパク質を修飾する系はないので、糖鎖による修飾が重要である場合には大腸菌での発現は適当ではない。
1)cDNAの入手
目的タンパク質のcDNAはPCRにより容易に作成できる。多くのタンパク質のcDNAは購入することも可能である。
2)発現ベクターとホストの選択
発現ベクターとホストの組み合わせは、pET17とBL21(DE3)の系を用いるのが容易である。つまり、T7 RNA polymeraseを利用した発現系を使用する。多くのT7系の発現ベクターの中で特にpET17を選択する理由は、この発現ベクターが3kbとサイズが小さく扱いやすいことにある。
3)発現ベクターに挿入するcDNAのデザイン(His-Tag)
N-末端の配列は発現レベルに影響することが多いので、特別な理由がなければ、C-末端に6xHisを導入しておく。4xHisは、Ni-NTA columnに対する結合が弱く、大腸菌由来のタンパク質を十分に洗い分けることが難しくなる。
N-末端は、NdeIサイト内のATGを利用し、second codonは目的とするタンパク質ごとに有利、不利がある(Looman,
A.C. et al. Embo J 6, 2489-2492 (1987))。高発現を得られる可能性の高いコドンは
AAA (Lys)、GCU (Ala)などである。筆者は膜タンパク質の発現では、常にGCTを用いている。
3-5番目のコドンについては、生じたRNAに対するリボソームの結合 と翻訳効率を上げるためにアミノ酸配列は維持したままATリッチなコドンを利用する。
注1:PCR用のプライマーは、現在ではプライマーの合成が安価となっており、長さをケチる意味は無くなっている。従って、アニールする部分を20nt確保するようにデザインする。
注2: PCRで作成したcDNAのfragmentは完全にsequenceして、配列に間違いがないことを確認する。
注3:発現プラスミドの作成において最も重要なことは、失敗しないデザインをすることである。 失敗をしてやり直すと、それだけで1週間を失う。
初めまして。コメント欄にて失礼致します。
返信削除当方、日本蛋白質科学会の運営するオンライン学会誌である蛋白質科学会アーカイブ(http://www.pssj.jp/archives/index.html)の編集委員を勤めております。先生の大腸菌による蛋白質発現に関わる記事を拝見し、感銘を受けました。もしよろしければ当該記事をまとめて、蛋白質科学会アーカイブにご投稿頂けないでしょうか?ご検討頂けます場合にはトップページ下の【お問い合わせはこちらから:蛋白質科学会アーカイブ編集委員会】をクリックして頂き、【投稿の依頼を受けた】旨、編集委員にご連絡下さい。正式に投稿依頼をさせて頂きます。
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