2013年1月27日日曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法13:IPTGとtransformantの安定性

大腸菌のtransformantは、発現ベクターを導入し、Amp/Kan plateに生えてくるコロニーを単離しただけの状態では、安定なstrainとはなっていない。従って、タンパク質の発現を誘導する為に、IPTGを加えると単一コロニーとして単離した大腸菌は時間とともにヘテロな集団となる。発現ベクターのマーカーがAmp耐性である場合、培養液中のAmpは時間とともに中和されその効力を失う為に、途中からは発現ベクターを失いAmp耐性を持たない大腸菌も増殖することが可能となる。
特に動物のP450は膜タパク質であり、大腸菌に取ってこれを発現することは強いストレスとなる為に、大腸菌は何らかの形で生き延びる手だてを講じる。 その結果、かなりの割合の大腸菌は、発現ベクターを体内から除く選択をすることとなる。従って、大腸菌のtransformantをAmp/Kan plateで単離して、そのまま通常のやり方でIPTGで誘導をかけて細胞をファルコンのtubeで回収すると、P450のように色の付いた酵素の発現を行ってみれば、白から濃い茶色までの大腸菌の色の層ができるので一目瞭然である。白い大腸菌は発現ベクターを失ったものが増殖したものであり、茶の色も発現レベルにより幾つかの集団に分かれるのであろう。
では、Ampではなく、培養中に失われない抗生物質を発現ベクターのマーカーとすればどうであろう。この場合にも、かなりの割合の大腸菌は発現ベクターを排除する為に、結果的に、抗生物質を含む培養液中では増殖できず、増殖できる大腸菌量が激減する。これは、pHのタイムコースを大きく変化させ、すべての条件が変わってくる結果を導き、大腸菌発現をますます訳の分からないものとしてしまう。
一方で、先に述べた、IPTGの至適濃度を決める為の、IPTG screeningを行って単離した大腸菌の場合には、発現ベクターを維持しながら、IPTGによるタンパク質発現のストレスに耐える何らかの変化を遂げた コロニーを単離しているので、発現のためにIPTGを加えても、培養中に発現ベクターを失う大腸菌はほとんどなく、ファルコンtubeで大腸菌を回収しても、大腸菌のペレットに明確な層が現れることは無い。つまり、IPTG screeningの意味は、IPTGの至適濃度を決める目的だけではなく、タンパク質発現の為のストレスに耐えるより安定化したtransformantを単離することでもある。


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