2013年1月25日金曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法12:誘導のタイミング

誘導のタイミングはどのようにして決めれば良いのか。対数増殖期が良いというもっともらしい話はあるが、根拠は無いのではないか。
では何を根拠にどのようにして誘導のタイミングを決めれば良いのか。
37度でのprecultureは、できるだけ激しく効率よく培養液がフラスコの壁を伝って回転するようにして空気と触れる表面積を増やすようにする。
しかし、最適の誘導のタイミングは、発現するもの(標的タンパク質)により微妙に異なる。恐らくこの基本は濁度でありODを測定することはあながち間違いとは言えない。
ともあれ、仮にベストの誘導のタイミングに4時間で到達したとすると、この時のpHのタイムコースをモニターすればpHは6付近まで下がり再び上昇を始めて7付近に到達する。これが回収のタイミングとなり、ここで回収すれば高い発現レベルを得ることができる。これを逃すと、pHは更に急激に上がり、発現蓄積されたタンパク質は急速に失われる。

 同じものを10分早く誘導すると、pHの下がりはきつくなり、6以下にまで下がる。これでも下がりすぎていない場合には、再び上昇を始めてpHが7になまでに時間はかかるが、発現レベルはあまり落ちないでタンパク質を回収することができる。
もっと早く誘導してしまうと、5付近までpHは下がり、その後上昇を始めて7になるのを待っても、大部分の大腸菌は恐らくプラスミドを失っているのかと思うが(確認をしたことは無い)、全く発現は見られなくなる。(図の赤線)

一方で、誘導が遅すぎると(図の青線)  pHは十分に下がらず、すぐに上がり始める。これも想像であるが、恐らく、発現の為の十分な時間が取れず、pH7で回収しても高い発現レベルは得られない。

従って、至適な誘導のタイミングを知る為には、pHのタイムコースを見るだけで、概要を知ることができる。
一方で、実際にやってみれば、誘導の至適な時間の許容範囲はかなり狭く、ODを測っているだけで10分から15分もかかっていてはタイミングを逃しかねない。従って、私は目で見て誘導のタイミングを決めている。これが最も簡便で現実的な方法である。これをもって、目で見るのは科学的でないという批判を受けたことがある。ごもっともであるが、目で見て決めた方が確実で、手間もかからず、苦痛も少ない。


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