2013年1月17日木曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法7:培養条件その2 pH

培養条件その2;pHと発現レベル

pHは高発現を得る為の最重要項目の一つである。

TB培養液は、代謝物によるpH低下を防ぐ為に炭素源としてグリセリンを利用している。更に、培養中のpHの変化を押さえる為に100 mMのリン酸バッファーを含んでいる。教科書のこれらの記述によって、私は、TBのpHは培養中に大きな変化はないものと思い込んでいた。 また、pHメーターの電極を最近の培養液につけるのは暴挙であるという教えも受けた覚えがある。諸々の理由により、大腸菌を培養中の培養液のpHを測ることがなかった。実際に測ってみると、信じがたい程に大きな変化があり、タンパク質の発現レベルと重要な関係があった。

37度で4時間程度のprecultureではpHは7.2 程度で大きな変化はないが、誘導を開始してから、pHは下がり始め、6.0付近まで一旦下がり、再び上がり始める。通常、14−15時間後には、pH6.5−7.0の間になり、約1時間でpHは0.1上がる。これを目安にして、pH7.0で発現レベルは最大を示すので、ここで大腸菌を回収する。

一度、丁寧にpHと発現レベルの関係を調べておけば、以降はpHだけをモニターして大腸菌の回収のタイミングを決定できる。

標的タンパク質の発現と培養液のpHの関係は、はっきりしている。誘導後、pHが6.7程度に下がるまでの間に活性のあるタンパク質の発現をある程度見ることができる。その後、pHの低下とともに、活性のある標的タンパク質は消失し、pHが6近くまで下がり再び上がり始め、7に近づくとともに再び発現を検知できるようになり、7付近で発現レベルは最大となる。pHが7を超えると、pHは急激に上昇を始め、pHの上昇とともに活性のある標的タンパク質は失われて消失してしまう。

このpHのtime courseは、誘導のタイミングと密接な関係があり、わずかに誘導が早いとpHは6以下となり、恐らく発現プラスミドが失われてしまう為に、より長い時間をかけて再びpHが上昇して7近くになってもタンパク質の発現は見られなくなってしまう。
一方で、誘導のタイミングが遅いと、pHはあまり下がらずに上昇を始め、恐らく発現の為に必要な十分な時間を確保できないうちに7に戻る為、高い発現レベルは得られず、そのまま7を超えて時間とともに標的タンパク質は消失する。



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