IPTGの至適濃度
メーカーの解説、実験書など多くのものに、IPTG濃度を調整することにより発現レベルを高めることができると書いてある。しかし、これまで述べたように、大腸菌の培養条件には多くの要因が複雑に関係し合っており、発現レベルが低くて困っている時に、IPTGの濃度を振ってみて至適濃度を求めることは現実性に欠ける。
特に、活性のある標的タンパク質の測定に簡単な方法が無い多くのタンパク質では、4−5点程度IPTG濃度を振って、それぞれの濃度でのタンパク質の発現レベルを調べることは時間と手間ばかりかかり、良い結果が得られることは期待できない。
これには、IPTG plateを用いる方法が有効である。LB plate(約15 ml LB)に0.4 mM, 0.2 mM, 0.1 mMとなるようにIPTGを加えてまんべんなく広げ、37度の培養器で1時間程おいておく。この際、LB plateは、Amp とKanは含まないものを使用する。
このIPTG plateにtransformantの一夜培養液をLBで1万−10万倍に希釈したものを、100μl spreadする。これを培養器に入れ、37度で一夜置くと、左図のようにIPTG濃度が高いplateほど生えてくるコロニー数は減少する。
また、発現の難しいタンパク質のtransformantほどコロニー数は減少する。
注意する点は、1枚のプレート上のコロニーのサイズに大きなばらつきがあるという点である。
大腸菌発現というものは、基本的に大腸菌に苦痛を強いるものであり、大腸菌はこの苦痛に対して何らかの形で身を守ろうとする。その結果、一部は、発現ベクターを排除する。大きいコロニーがこれに当たる。小さなコロニーは、何らかの形で、発現ベクターをその身に保持したまま、苦痛に耐えて折り合いをつけようとするものと考えられる。
左図は実際にこれを行った時のIPTG plateの写真である。
右のIPTG 1 mMのplateには大きいコロニーしか生えておらず、これらの大きいコロニーはすべてpETベクターを持っていない。
左のIPTG 0.125 mMのplateには大中小のコロニーが生えてきている。従って、このIPTG濃度であれば発現ベクターを保持したまま生存できる大腸菌がいることを示している。
この左のplateから、大中小に分けてコロニーをピックアップし、LB with Amp+Kan plateにstreakして、37度で一夜培養すると、
左図の右側のようなplateを得る。
発現することが特に困難なタンパク質はIPTG濃度が0.12 mMでも非常に少ない数のコロニーしか発現ベクターを保持したまま生えてこない。
右のplateで生えてきたコロニーは、IPTG 0.12 mMで発現ベクターを保持したまま増殖できるtransformantであって、これを発現実験に使用する。当然、誘導時のIPTG濃度は0.1-0.2 mMとする。
この方法の大きなメリットは、標的タンパク質の発現レベルを測定するのではなく、plate上だけでIPTGの至適濃度を知ることができること、更に、ここで決めたIPTG濃度において選択した大腸菌は発現ベクターを保持した状態で増殖し、標的タンパク質を作ることができるということである。
ここで分かることは、最初に発現ベクターを導入し、Amp/Kan plateでピックアップしたコロニーは、transformantとしては不安定な状態にあり、IPTGにより刺激を受けるとへテロな集団となると云うことである。
記事に対するご意見、質問を歓迎します。
現在大腸菌でのタンパク質発現に挑戦しているM1の院生です。いつも興味深く読ませていただいてます。
返信削除IPTGの至適濃度に関してわからないことがあるので、2つ質問いたします。
IPTG plateにまくtransformantの一夜培養液は抗生物質を加えて培養したものでしょうか? plasmidが抜けるのを防ぐために抗生物質を入れて培養すると考えたのですが、これでよろしいですか。
また、IPTGプレートからコロニーをピックアップして植菌するplateにampicillinとkanamycinの両方が加えてあるのはなぜなのでしょうか? 組み込んだplasmidが耐性遺伝子を持たない抗生物質を加えると大腸菌が死滅してしまわないのでしょうか。
お忙しいところ申し訳ありませんが、ご回答くださればと思います。
ご質問有難うございます。
削除1)IPTGプレートに撒く為の一夜培養液は、Ampの有無はどちらでも大勢に影響は無いと思いますが、私は加えています。つまり、一晩のうちにAmpの効果は消えているので、あまり問題にはなりませんが、気持ちpETをキープしている大腸菌を増やす為です。
2)IPTG plateからコロニーをピックアップするplateにAmpとKanを加えていることの理由は、ここで使用しているトランスフォーマントは、Kanレジスタンスを持つGroES/ELの共発現ベクター(pGro12)を用いているため、pETのAmpとpGro12のKanを加えて、両方のプラスミドを持つクローンを選択する為です。
従って、pETのみを使用する場合には、当然Ampのみを含むplateを使用する必要があります。
研究がうまく行くよう幸運を祈ります。
香川