2013年6月1日土曜日

大腸菌で発現したタンパク質の精製5:樹脂の選択


Ni-NTA agaroseから溶出されたP450は、約90%以上の純度となると考えられる。これをSDS-PAGEでオーバーロード気味にしても単一バンドとなる程度まで精製する為には、DEAE-SepharoseSP-Sepharoseなど更に精製を進める必要がある。まず、P450の精製を例に具体例を挙げながら説明を進める。

1)DEAE-Sepharoseの利用(陰イオン交換樹脂)
大部分の動物のP450は、低めのイオン強度でも一定条件でDEAE-Sepharoseを素通りする。従って、Ni-NTA agaroseからの溶出画分を、低めのイオン強度でDEAE-Sepharoseに素通りさせることにより、大部分の不純物はDEAE-Sepharoseに吸着して除くことができる。基本的に素通りさせることを考えているので、太く短いカラムで十分であり、操作が楽で、時間も短縮できる。

動物のP450は、疎水性の高い膜蛋白質であり、detergent存在下でも凝集し易いことが精製の際の問題となる。その為に、Q-Sepharoseのような強いイオン交換樹脂は用いない。一方で、細菌のP450など可溶性の蛋白質の場合には、Q-Sepharoseの方が効率が良い場合が多い。しかし、細菌のP450のような可溶性蛋白質を精製する場合でも、必ずコール酸/Tween 20を用いておく方が安全である。

可溶性蛋白質の精製でも必ずコール酸/Tween 20を加えて精製することにより、蛋白質の凝集、カラムの樹脂への吸着を防ぐことができ、精製のトラブルを減らし、回収率を上げることができる。必要ならばdetergentは後で抜くか、置き換えるかすれば良く、精製中にリスクを冒す必要はない。

2)CM-SepharoseまたはSP-Sepharoseの利用(陽イオン交換樹脂)
大部分の動物のP450は、CM-またはSP-Sepharoseに吸着する。これを、3番目のカラムとして用いることにより、P450を高度に精製することができる。これを3番目のカラムとして用いることの理由は、この段階では、精製サンプルは既にほとんど不純物は除かれており、吸着容量としては、P450のタンパク量で必要なカラムの体積(bed volume)を計算できる為、大きなカラムの体積は不要であり、これもまた、太く短めのカラムで、十分に不純物との分離を得ることが可能である。

精製には常にdetergentを用いることは、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂ともに共通している。もし、SP-Sepharoseを用いて蛋白質が凝集するようであれば、CM-Sepharoseに切り替えるべきである。

3)hydroxyapatite
アロマテース(P450arom)の3番目のカラムとしては、hydroxyapatiteが有効である。多くのP450の精製に使えるが、通常、大腸菌で発現したP450は、N-末端の疎水的な膜に挿入される部分(membrane anchor)を削除しているので、hydroxyapatiteをあえて使用する必要はない。アロマテースの場合には、N-末端を削除してもなお疎水性が高く、カラム上で容易に凝集する為に、hydroxyapatiteのような、比較的吸着能の低いカラムを使用することで、凝集を防ぎ、精製することが可能である。

4)ゲル濾過
P450のゲル濾過は、Sephadex G200などで行うことができる。しかし、これを精製に用いるという考えは妥当ではない。特に、疎水性蛋白質では、ゲル濾過にもdetergentの存在が必要であり、しかもカラム長は長くせざるを得ない。その結果、ゲル濾過での樹脂への蛋白質の吸着が多く、回収率が極端に低下する。また、ゲル濾過を行うには蛋白質を濃縮する必要があり、一方で、溶出してくる蛋白質画分は希釈されてしまう。手間と、時間と、蛋白質のロスを考えれば、ゲル濾過は精製に使用すべきではない。

5)透析
イオン強度を調節する為に、透析により脱塩をすることは常套手段であるが、透析は、手間と時間がかかる一方で、蛋白質の凝集のリスクが大きい為に、私は、通常これを避け、低イオン強度のbufferで希釈する方法をとっている。

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