しかし、このタンパク質は疎水性が高く、精製することにも多くの制限があり、また、結晶化を試みてもすべての結晶化溶液で簡単に沈殿を生じて、結晶を得る可能性は無いに等しいと考えられた。結晶化の可能性を求める為に、変異を導入しタンパク質の親水性を上げる必要があった。しかし、酵素活性は維持したままでなければならない。
これを実現する為の方法について、次の仮説を立てた。
1)Hydropacy plot によって、タンパク質の親水性を判定できるとする。
2)ほ乳動物のP450c21はすべてステロイド21−水酸化活性が主たる活性であるとする。従って、ウシのP450のアミノ酸を他のほ乳動物の配列に置き換えても活性に大きな影響は無いとする。
3)タンパク質の親水性が上がれば、発現レベルも上昇する傾向があると考えることは正しいとする。
4)Hydropacy plotの親水性の最も高いピークを更に高くることで効率よくタンパク質の親水性を上げることができるとする。
5)Hydropacy plotの最も親水性の低い親水性の谷(疎水性のピーク)を高くすることでタンパク質の親水性を上げることができるとする。
まず、Hydropacy plotにより、最も高いピークと最も低い谷の位置を見る。P450c21の場合、244番のRが親水性の最も高いピークを示している(左図一番上の図)。親水性の最も深い谷の底は423番のLである。
ここで、得られる総ての動物のP450c21のアミノ酸配列をデータバンクから落とし、アラインメントによって244と423の位置およびその周辺のアミノ酸がどれほど保存されているかを見る。
保存性が高い場合には変異の導入により活性を変化させる恐れが高いので、アミノ酸が保存されていない位置での変異の導入をデザインする。
可能性の高い位置に変異を導入して一つ一つHydropacy plotを取って確認する操作によって変異の導入を決定する。
その結果、423のLを直接Aに置き換えることにより、親水性の谷底は -2.86から-2.63に上がることが分かった。親水性のピークは243のTの位置をRに置き換えることにより、2.57から2.97に上がった。そこでこの二つの変異を導入したクローンを作製し発現してみた。
実際に発現してみると、変異を導入する前は、1200-1300 nmol/L cultureであったものが、L423Aは2900 nmol/L cultuer、223R423Aのdouble mutationでは、2000 nmol/L cultureまで発現レベルが上昇した。
発現レベルからして変異体はいずれも親水性が上がり、安定な形で発現されていると考えられるが、L423Aが最も親水性が高いかと言えば、実際に精製してみると、精製過程を見る限りやはりdouble mutationの方が親水性は高いと判断された。
結果として、私の立てた仮説は概ね正しく、活性の解析を行ったところ酵素活性に変化は認められず、親水性が高く結晶化が可能なタンパク質を得ることができた。
結論としては、アラインメントにより他の動物などとアミノ酸配列を比較して、親水性を挙げる変異の候補をピックアップし、hydropacy profileにより、変異の導入前後で、蛋白質全体の親水性を効果的にあげる変異を導入すれば、活性に影響を与えない変異の導入により、親水性を高めることができる。
親水性が上がれば、大腸菌内での蛋白質の安定性も上がり、発現量の増加も期待できる。また、精製過程での樹脂への吸着、凝集も減少し、回収率が上がるとともに、精製も容易になる。
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