2013年4月24日水曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法22:全体像


ここまで、大腸菌でタンパク質を発現する法について一連の流れを解説した。一旦これを整理する。大腸菌での発現は、ここに示す道筋にそって丁寧に進めるならば、これまでの経験では、90%以上の蛋白質をある程度以上のレベルで発現することができる。どうすれば良いかという道筋がはっきりしていることが、これから大腸菌で蛋白質を発現しようとしている研究者には大きな助けとなると期待している。

1)ベクターと大腸菌株は、pET17BL21と決めてしまう。

2)予め蛋白質の発現レベルの測定法を決める。
注)これは非常に重要である。SDS PAGE では発現レベルは確認できない。

3)発現したい蛋白質(標的蛋白)のcDNAを入手する。
注)現在では大部分のヒトのcDNAが購入できるようになっている。

4)標的蛋白及び類維持するファミリーが過去に大腸菌で発現されたことがあるかどうかを検索する。もし発現されていれば、N-末端とC-末端の配列をどのようにしているか注意する。
また、nativeと発現形(N-末、C−末等の変換形)に対して、hydropacy plotを取り、変化を比較しておく。

5)標的蛋白がヒトのものであれば、得られる総ての動物の標的蛋白のアミノ酸配列をデータバンクから落とし、alignmentにより解析する。

6)N-末端とC-末端の配列を決めて、対応するcDNAPCRにより作成し、完全にシークエンスをしてDNA配列を確認した後、pET17に組み込む。

7)BL21(DE3)BL21(DE3)pGro12 (GroES/GroEL発現プラスミド)を導入したものの両方に発現プラスミドを導入する。
注)Chaperone Plasmid Set (21000)として、あるいはシャペロン発現プラスミドを持つtransformantとしてタカラで類似のものを購入できる。

8)Transformantが生えて来たら、まずover night culture をして、その一部をfrozen stockとし、一部を用いてIPTG screening を行い、発現用に用いるコロニーの候補を3個程度取る。
ここで、発現誘導の為のIPTGを決めることができる。(通常は0.5-1 mMで可能)

9)前項のコロニーをover night cultureし、一部はfrozen stockとし、0.25 ml 25 ml (125 ml3角フラスコを使用)のTB mediumで希釈して小スケールでの培養を開始する。

10)培養は、37度、できるだけ激しく撹拌する。約3−4時間でOD6000.7-1.0となる。

11)IPTG、およびシャペロン誘導の為の試薬、その他のもの(P450の場合には、ヘムの前駆体であるdaminolevulinic acid)を加え、培養温度を28度に落とし、14-20時間培養を続ける。

12)培養液のpHをモニターし、pHが上昇して7になった時、遠心により大腸菌を回収して、蛋白質の発現量をチェックする。
注)pHが7になるまでに、2-3点サンプリングして、pHと発現レベルの変化を確認をしておくと分かり易い。

13)最も発現レベルの高いtaransformantfrozen stock のみを残し、他は捨てておく。
注)シャペロンの有無による比較データをしっかり取っておくと、見せる時に都合が良い。

14)大スケール(500 ml)程度で、もう一度発現を行ってみる。

15)目的に十分な発現量が得られた場合には、発現の検討はここまでとして精製へと進む。十分な発現量が得られなかった場合、先に延べた方法で、蛋白質の内部に変異を導入する。

3 件のコメント:

  1. こんにちは,大腸菌発現系構築を試みているM1です。
    具体的な内容で大変参考になります。
    恐れ入りますが,発現系構築に関して質問をさせてください。

    現在,80 kDa近くある酵素前駆体を発現しようと試みています。
    BL21Gold(DE3)pLysSで発現検討していますが,
    ここで述べられているようにSDS-PAGEでは発現確認ができません。
    ウエスタンブロットで検出を試みていますが,可溶性分画では検出できません。
    Niカラムを用いてHisタグ精製を行うと,完全長ではない単一のバンドが検出されます。(Hisタグ抗体で検出)
    本サイトでご紹介されているように,前任の研究者がレアコドン補充の大腸菌で発現系を構築できていないことから。レアコドンは考えにくいですが,原因がよくわかりません。
    このような完全長のタンパクが得られないということは起こりうることでしょうか?
    また,精製後のウエスタンブロットで検出できないレベルでは形質転換のステップから検討したほうがいいでしょうか?

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  2. ご質問頂き有難うございます。

    precursorは生体内で、1人でふらふらしていることはなく、ヒートショック蛋白質、移送系のタンパク質などの複合体として安定な状態に保たれていると考えられます。

    従って、大腸菌でprecursorを発現することは、特に80kDaという比較的大きなタンパク質では困難なケースが多いと考えるべきかと思います。通常は、大腸菌の中ではprecursorは複合体を形成して安定化できるヒートショック蛋白質などが十分に得られず、翻訳途上で分解系に入るか、最後まで翻訳されたとしてもinclusion bodyへと取り込まれることになると考えられます。

    precursorを発現する目的にもよりますが、2、3回試して出来なかったのであれば、これはできないと考えるべきかと思います。もし、inclusion bodyの生成が見られるようであれば、そのままinclusion bodyとして発現されていると考えられます。この場合でも一部切断されている可能性は低くありません。幸運な場合には、全長でinclusion bodyから回収可能ですが、変性系では可溶化できてもその後の利用を考えると制限が有ります。

    可能性としては、得られるヒートショック蛋白質を総て共発現して可溶性に来ることを期待することも考えられますが、1度試してだめなら出来ないと判断すべきかと思います。

    大腸菌での発現は、あくまで元の細胞内で安定に存在する形態であればたいていのものは正しくホールディングされた活性のあるものとして発現可能と考えていますが、precursorのように本来の細胞内でもそれ自身では安定でいられないものは、大腸菌内でも安定でいられないと考えています。

    研究の目的にもよりますが、生体内で安定に存在するmatureなタンパク質の発現と精製には大腸菌で発現する優位性がありますが、生体内で安定な形を持たないprecursorなどについては限界があります。

    precursorを発現しようとする目的を考えて、それに最も適した系を選択することが必要で、大腸菌発現にこだわると時間を無駄にすることになる危険性が高いように思います。

    香川

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    1. 香川先生

      ありがとうございました。
      ホストセルにつきましては悩んでおりましたが,
      前向きに検討していきたいと思います。

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