2013年5月21日火曜日

大腸菌で発現したタンパク質の精製1:タグ

大腸菌でタンパク質を発現する目的の大部分は、ヒトのタンパク質などのように直接臓器を大量に採取して、タンパク質を精製することが難しい対象を詳細に解析するためである。
大量の精製された純度の高いタンパク質を得ることができれば、良い抗体を作ることも容易であり、抗体を用いた様々な解析が可能となる。また、in vitroでの再構成系を作り、タンパク質の生理活性を詳細に解析したり、NMR, X-線などによる構造解析も可能となる。現在では、可溶性のタンパク質は結晶化も容易になり、結晶構造からタンパク質の生理活性の本質を探ることも可能となっている。

ここでは、生理活性を有するタンパク質として大腸菌で発現し、精製することを考える。精製を目的とした場合、N-末端かC-末端にタグを付けて、アフィニティーカラムにより精製するのは常套手段である。主に使用されているのは、N-末端にグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GSTase)を付けた融合蛋白質として発現し、グルタチオン-セファロースなどにより精製した後、必要に応じてグルタチオン-S-トランスフェラーゼの部分を特異的プロテアーゼにより切断する方法、N-末、又はC-末に6xHis(ヒスチジン6個分のコドンを付け加えた形)を加えた蛋白質として発現し、Ni-、又は、Co-affinity columnで精製する方法がある。6xHisは小さいため、通常は、活性測定、結晶化などの邪魔にはならないので、切断せずそのまま目的の解析に使用される。両者ともに、精製の方法、理論的背景は、これらのアフィニティーカラムを販売しているところから一応のものを容易に得ることができる。
GSTaseを用いる方法は、精製の効率、その後のプロテアーゼによる切断/回収の効率、及びこれらの操作の煩雑さを考えるとあまり有利な方法ではない。Promega、又は、GE Healthcare Life SciencesでGST fusionの発現ヴェクター、精製用の樹脂(Glutatione-Sepharoseなど)を入手できる。

従って、特別な理由が無い限り、6xHisを使用することが容易であり、簡便でもある。6xHis Tagは特別な発現ヴェクターの必要はなく、標的蛋白質の末端にヒスチジンのコドンを6個加えるだけである。精製の為の樹脂(Ni-agarose, Co-agarose, Ni-Sepharose, Co-Sepharoseなど)は、様々な購入先がある。

その他として、マルトース結合蛋白質との融合蛋白質として発現精製する方法もあるが、使用頻度は全2者に比べ少ない。私もこの系を使用した経験は無い。結晶化が困難な膜蛋白質を、相対的に大きな可溶性蛋白質であるマルトース結合蛋白質との融合蛋白質とすることで、全体的に大きな可溶生蛋白質とし、融合蛋白質のままで結晶化することができ、膜蛋白質の構造を得ることができた例がある。

注)膜蛋白質を扱う場合、樹脂の担体volume当たりの吸着容量が高いものを選ぶと、樹脂上で目的蛋白質が凝集して溶出効率が悪くなることがある。



4 件のコメント:

  1.  こんにちは。最近、大腸菌でのタンパク発現をはじめた者です。ラボにタンパクを扱った経験者がいないので、このサイトではたいへん勉強させていただいています。
     ところでP450の(大腸菌だけでなくバキュロウイルス等も含めた)発現実験の論文を読んでおりますと、活性を測定するのに、可溶化精製してから再構成系を用いている場合と、P450レダクターゼを共発現させて膜画分を粗抽出している場合が見受けられます。
     私の専門である昆虫のP450の研究に関しては、再構成系を使用している人はあまりいないのですが、それは発現させたP450でも可溶化や再構成系の構築が難しいからだと聞いています。哺乳類の場合は、再構成系を用いて活性を測定する方法が(簡単だとは思えませんが)確立しているのでしょうか?
     お答え、宜しくお願い致します。

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    1.  昆虫のP450の場合には、歴史が浅く総ての材料を持つ人がいない為ではないかと思います。再構成系を確立しようとすれば、昆虫のreductaseあるいはFDX/reductaseの発現精製が必要であり、きっちりやろうとすれば、哺乳動物の電子伝達系を用いた場合と比較することとなり、哺乳動物の電子伝達系も入手しておきたいところです。従ってかなりの手間と時間がかかる為に、再構成系はなかなか作られないのだと思います。
       モノさえあれば、再構成系を作る事は容易であると考えて問題ないと思います。エクダイソン系を扱うとすれば、基質の溶解度の低さが問題となり、ノウハウを持たないグループでは非常に難しいかもしれません。
       哺乳動物の場合、多少のノウハウさえあれば、全く問題なく恐らく誰でも簡単に再構成系で反応を解析できると思います。ステロイド合成系は基質の疎水性の為に、知らなければ出来ないという面はあり、特にCYP51などは、知らない人がいきなり出来るというものではないように思います。
       昆虫のP450の再構成系に対しては、簡便な方法として、哺乳動物の電子伝達系を使ってみるのが第一かと思います。ミクロゾーム系であればラットのredactase, ミトコン系であれば、ウシのAdx/reductaseを用いれば、たいていの場合は問題なく動くのではないかと思います。

      香川

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  2.  コメントどうもありがとうございました。
     再構成系が(条件付きとはいえ)哺乳類では基本的な技術であるということを認識しました。哺乳類に関する研究論文も更に読み進めてみようと思います。
     私の研究は殺虫剤等の異物代謝をみることが目的なのですが、基質の水溶解度は低いので、なかなか困難な実験になりそうです。
     ブログの更新をこれからも楽しみにしております。
     

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    1. 再構成系の難しさは、基質の溶解度とproductsの検出感度にあり、ステロイド類では、3Hラベルした基質を用いる事で、反応解析が可能となっています。
      再構成系の場合、モノにより、detergent, DLPC, egg lecithinなどのチョイス、もう一つは、Sligarのnanodiscを使って見るのも可能性の一つかもしれません。

      殺虫剤などは、蛍光法で良い測定法があれば、簡単にシステムを作ることができる可能性はあります。

      成功を祈ります。

      香川

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