2013年8月5日月曜日

大腸菌でタンパク質を発現する法25:発現ベクターの作成3

発現ベクターを作成する為に最初に入手すべき標的タンパク質のcDNAは、現在では容易に入手できる。真核生物のcDNAは、cDNAライブラリーを入手できれば、ここから増幅するのも欲張らなければ通常は容易である。

cDNAをプラスミドで得ることができたとして、PCRの為に、N-末端とC-末端のプライマーをデザインする必要がある。このプラーマーのデザインにあたっての前提条件を前回記したので、ここでは、具体的なデザインについて考える。

この際の注意点は、ある程度先にも延べているが、
1)ベクターへの挿入にはNdeIサイト(N-末)とC-末は使い易いサイト、例えばHindIIIなどを使用するように考えて、PCR用のオリゴを発注する。
2)N-末端の配列が、後の発現レベルに大きく効いてくる為、N-末のデザインには特に注意が必要である。例えば、以下に示すのはCYP21を発現した際の、N-末のオリゴである。
acgcatatggctaaaaagacatcatctaaaggtaagctcccacctctggtccccggcttcctgc
 ここでは、PCRの反応後、PCR精製フラグメントをblunt end pBSpBlueScript)のEcoRVサイトに一旦サブクローニングし、ここで、拾い上げたクローンのインサートが完全である事をsequenceにより確認する。その後、NdeI/HindIIIでフラグメントを切り出し、pETに挿入する。pETではフラグメントがNdeI/HindIIIで切り出せる事だけを確認して、以後の実験に使用する。

 5’-末端のacgPCRを完結させる事、後のベクターへの挿入の際にNdeIサイトが確実に再生されるようにつけている云わば、マージンの残基である。従って、acgでなければならない理由は無いが、cccとかgggとすると、blunt endでのligationの効率が落ちるので、末端が固い2次構造をとらないように気持ち配慮している。
 acgの後catatg(NdeI site)、その後に良く発現する事が知られているRat CYP2C3N-末端(小文字の部分)で置き換えている。
 セカンドコドンは、gctとし、以降の配列はアミノ酸配列を維持したままAT-richの配列とし、RNAが固い2次構造をとらず、リボソームが効率よく移動できることを意図している。
 大文字の部分からがCYP21の配列(28 nt)である。従って、全長64 ntのうちcDNAanealするのは28 ntのみである。経験上、anealする配列が24 nt以上あればPCRの効率に問題は起こらない。安全の為に、ここでは長めに取って28ntとしている。

C-末端は、以下のようにデザインする。見やすいように+鎖で示すと、
左から24ntcDNAanealするCYP21の核酸配列であり、その後に、Hisをコードする6個のコドン(CACCATCACCATCACCAT)を導入し、ストップコドンを入れて、HindIII site、末端のマージンとしてcgtを加える。(当然発注する際は、5’ acgaagctt...と相補鎖を発注する)

1PCRの反応は、その時に評判の良いproof readingDNA polymeraseを用いて、普通にやれば良い。反応は、0.05mlのスケールで十分である。
2)反応後、Klenow fragment1 micro-L 加えて、37度で1分程おき、PCR 生成物の両末端を完全に埋めてblunt endとする。(Klenow fragment処理によって、blunt ligationの効率が上がる。注1参照)
3)反応液をミニゲルに流し、予定したサイズのfragmentをゲルから切り出す。PCRの反応がうまくいっていれば、目的のfragmentが主生成物としてはっきりとしたバンドになる。
4)この精製は現在ではキットを使うのが良いであろう。私は、キットを使った事が無いので、どれが良いか良く知らないが。
fragmentethanol沈殿の後、0.5 micro-L の水に溶かす。

一方で、pBS1 micro-gEcoRVdigest20 micro-L scale)した反応液を、thermo-labile phosphataseNew England BioLab)で処理し、熱処理後、-20度でストックしておく。(注2

5)水1micro-Lに溶かしたPCR fragment tubeに予め作っておいたpBS (EcoRV digested)0.5 micro-L加える。

6) TaKaRa DNA Ligation Kit Ver 2.1I液を1.0 micro-L加える。voltexで混ぜ、spin downした後、16度で1時間程おく。(注3

1PCR fragmentsubcloningに関しては、非常に多くの検討がなされ、現在ではsubcloning kitを用いるのも一つの選択ではある。

2transformationで生えてくるコロニーの数は、ligationに用いるベクターの量によって決まる。従って、EcoRVで切るpBSの量を最初にきちんと決めておけば、生えてくるコロニーの数は常にほぼ一定となるように調節できる。

3)タカラのligation kitは非常に優れており、使い勝手も良い。kit一つで、26000円するが、一つのkitI液が0.75 ml入っており、1.0  micro-Lづつ使うとすれば、750回分、一回当たり35円の計算である。
トランスフォーメイション(Transformation

competent cellは通常は購入した方が簡単である。タカラのDH5 competent cell 1 mlで約2万円であるが、110 micro-Lあれば、subcloningには十分である。10 micro-Lとすれば、一回当たり約200円で、確実にモノが得られれば特に節約して自分で作る程の事も無い。

もし、competent cellを自分で作ろうという事であれば、以下の方法が簡便であり、経験の少ない学生でも失敗が無い。
Inoue H, Nojima H, Okayama H (1990) High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Gene. 96, 23-28.

Blue-White selectionによりwhite コロニーをピックアップする。(発現する方法8で示したようにピックアップしたくローンはナンバーをつけてストリークして保存する。)

ポジティブクローンを6個取り、プラスミドのmini-prepを行う。私はこのステップでは多少変わったやり方をとる。  

1)この培養は1.5 ml TBで行い、kitを使わずクラシカルなSDS-NaOH法でmini-prepを行う。最終のプラスミドは50 micro-Lに溶かす。(注4
21 micro-Lを取り、10 micro-L scaleNdeI/HindIII digestionを行い、ミニゲルでfragmentが切り出される事を確認する。
3fragmentが切り出されたもの2サンプルを選び、それぞれ20 micro-Lmini-prep kitにより精製し、これを用いて両側からsequencingして、核酸配列が完全に正しいことを確認する。(注5
4)正しいものいずれか一つを選び、50 micro-LscaleNdeI/HindIII digestionを行い、fragmentをミニゲルから切り出して、上記のsubcloningと同様の方法で、pET17 (NdeI/HindIII digested)に導入し、DH5に入れる。(注6
5)ポジティブクローンを4個程度拾い、plasmid mini-prepの後、NdeI/HindIII digestionによりfragmentがでるものを一つ選びこれを最終的な発現用のプラスミドとする。
6)このプラスミドを再度BL21系のホストに入れ、発現実験を開始する。

4)古い方法で行う理由は、一回のprepで十分な量を確保する事である。通常の1 mlLB培養を用いるkitではplasmidが十分確保できないことがある。
5sequencingの為には、キットでの精製が不可欠であり、一方で、アメリカ製のkitは不良品の為に全くplasmidが取れないことがあり、kitの利用は最小限としている。

6pETplasmidが欲しい時には、DH5に導入する。ここでBL21系のホストを用いると、恐らく、T7 RNA polymeraseの転写のリークの為と考えているが、極端にプラスミドが取れないことがある。

0 件のコメント:

コメントを投稿