ここまで、大腸菌でタンパク質を発現する法について一連の流れを解説した。一旦これを整理する。大腸菌での発現は、ここに示す道筋にそって丁寧に進めるならば、これまでの経験では、90%以上の蛋白質をある程度以上のレベルで発現することができる。どうすれば良いかという道筋がはっきりしていることが、これから大腸菌で蛋白質を発現しようとしている研究者には大きな助けとなると期待している。
1)ベクターと大腸菌株は、pET17とBL21と決めてしまう。
2)予め蛋白質の発現レベルの測定法を決める。
注)これは非常に重要である。SDS PAGE では発現レベルは確認できない。
3)発現したい蛋白質(標的蛋白)のcDNAを入手する。
注)現在では大部分のヒトのcDNAが購入できるようになっている。
4)標的蛋白及び類維持するファミリーが過去に大腸菌で発現されたことがあるかどうかを検索する。もし発現されていれば、N-末端とC-末端の配列をどのようにしているか注意する。
また、nativeと発現形(N-末、C−末等の変換形)に対して、hydropacy
plotを取り、変化を比較しておく。
5)標的蛋白がヒトのものであれば、得られる総ての動物の標的蛋白のアミノ酸配列をデータバンクから落とし、alignmentにより解析する。
6)N-末端とC-末端の配列を決めて、対応するcDNAをPCRにより作成し、完全にシークエンスをしてDNA配列を確認した後、pET17に組み込む。
7)BL21(DE3)とBL21(DE3)にpGro12 (GroES/GroEL発現プラスミド)を導入したものの両方に発現プラスミドを導入する。
注)Chaperone Plasmid Set (21000円)として、あるいはシャペロン発現プラスミドを持つtransformantとしてタカラで類似のものを購入できる。
8)Transformantが生えて来たら、まずover night culture をして、その一部をfrozen stockとし、一部を用いてIPTG screening を行い、発現用に用いるコロニーの候補を3個程度取る。
ここで、発現誘導の為のIPTGを決めることができる。(通常は0.5-1 mMで可能)
9)前項のコロニーをover
night cultureし、一部はfrozen
stockとし、0.25 ml を25 ml (125 mlの3角フラスコを使用)のTB mediumで希釈して小スケールでの培養を開始する。
10)培養は、37度、できるだけ激しく撹拌する。約3−4時間でOD600が0.7-1.0となる。
11)IPTG、およびシャペロン誘導の為の試薬、その他のもの(P450の場合には、ヘムの前駆体であるd−aminolevulinic acid)を加え、培養温度を28度に落とし、14-20時間培養を続ける。
12)培養液のpHをモニターし、pHが上昇して7になった時、遠心により大腸菌を回収して、蛋白質の発現量をチェックする。
注)pHが7になるまでに、2-3点サンプリングして、pHと発現レベルの変化を確認をしておくと分かり易い。
13)最も発現レベルの高いtaransformantのfrozen stock のみを残し、他は捨てておく。
注)シャペロンの有無による比較データをしっかり取っておくと、見せる時に都合が良い。
14)大スケール(500
ml)程度で、もう一度発現を行ってみる。
15)目的に十分な発現量が得られた場合には、発現の検討はここまでとして精製へと進む。十分な発現量が得られなかった場合、先に延べた方法で、蛋白質の内部に変異を導入する。